9月10日読売新聞のウェブ版に掲載していただきました。
http://www.yomiuri.co.jp/local/shiga/feature/CO028716/20170909-OYTAT50004.html
以下引用
◇創作工芸「近江一閑張いっかんばり」を守る 蛯谷えびたに 亮太さん 25
茶道具としても知られる伝統工芸・一閑張いっかんばりは、一般的に竹や木地で編んだかごや皿に、和紙を貼って柿渋や漆を塗って仕上げる。近江一閑張は芯となる竹などの代わりに、紙ひもを使う独特の技法だ。この技法を独自に始めた祖父・金介さん(85)、父・豊さん(53)と続く家の3代目。実用雑器として根強い人気の創作工芸を受け継いで間もなく3年。「これからも守り続けたい」と意気込んでいる。
半世紀ほど前、京都で和紙を板に貼り、人形を乗せる台を作っていた祖父が、荷造り用の紙ひもを編んだ芯に和紙を貼り合わせ、かごや箱などを作り出したのが始まり。本業の人形台作りから、徐々に一閑張の注文が増え、1988年、広い作業場を求めて湖南市に移転し、祖父と父が一緒に一閑張の作業に力を入れるようになった。
当時、仕事を継ぐ意思はなく、高校に進学した。しかし、しばらくすると、パティシエ見習いや、好きなバイクの修理・販売をするようになった。
22歳の時、バイクで転倒、頭の骨を折るなどの大けがを負った。入院中、「祖父は体力が低下し、父の負担が増えている。安い品物に押され、家業がなくなるのでは」と不安感に襲われた。「何とかしなければ」と、3代目を継ぐことを決意した。
近江一閑張は、幅2センチの紙ひもを自由に曲げ、折り、ねじり、芯を作るのが基本。用途に応じて、紙ひもの幅を細くして編むことも。編み上がった芯に手すき和紙を貼って乾燥させる。さらに、貼り重ねた和紙に、防腐、防虫効果のある柿渋を3~5回塗って仕上げる。
その仕事を小さいときから見て育ち、中学生時代には手伝うこともあった。しかし、23歳でこの道に入ったときは、貼った和紙の隙間に空気が入ったり、しわができたりすることもあり、改めて難しさを痛感したという。
それでも、持ち前の器用さで、習得に3年かかる技術を1年半で覚えた。今は父が販売を担当し、関東や九州方面の百貨店で展示会を開くなどして販路拡大に努めている。
工房では、祖父、父の作風を守りつつ、自分なりの作品にも挑戦。猫ブームから発想し、稲わらで編まれる猫の寝床「猫ちぐら」を、近江一閑張で作り出した。
7月には、湖南市の地域おこし協力隊員として活動する藤田剛史さん(38)と協力し、幅広い世代に商品を気軽に見てもらえる「蛯谷工芸公式オンラインショップ」(http://ebitani.shop/)を開設した。「近江一閑張の知名度を上げながら、祖父や父から受け継いだ技に磨きをかけ、新たな世界を開いていきたい」と力を込めた。(清水貞次)
◇近江一閑張は、和紙独特の風合いに軽さがなじむ。しっかりとした仕上がりで破れにくく、10年、20年と長く使えるのが特長。種類は盆、皿、かご、2段式箱など100種類を超える。価格は2000円台~10万円台まで様々。作業場の見学もできる。問い合わせは蛯谷工芸(0748・72・5788)へ。